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卒業生からのメッセージ
ディップ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO冨田 英揮氏
Hideki Tomita -
「夢とアイデアと情熱で、社会を改善する存在となる」
─ 冨田社長が語る、人財哲学とAI時代の仕事論
「人が財産」という言葉は、冨田社長の言葉に繰り返し登場するフレーズです。この言葉に至ったきっかけを尋ねると、「これだ、という一つの出来事があるわけではなくて」と、冨田社長はゆっくりと言葉を選びながら話し始めました。「若い頃からずっとマネジメントに携わる中で、本から学んだこと、先人から聞いたこと、自分の経験から得たこと、それらが積み重なって今の信念になっています」。
起業後、投資を受けて採用を本格化させた時期に、中途採用で離職率が高かった経験が特に印象に残っているといいます。「人を大切にしなければ、人はついてきてくれない、ということを改めて痛感した時期でした」。それ以来、長年のマネジメント経験を通じて、「伸びている企業の経営者の方は、皆さん共通して人を大切にされている」という確信を深めてきました。
「優秀な人に来てもらうためにも、人を大切にする姿勢をきちんと打ち出し続けることが必要だと思っています。会社が成長していくためにも、それは一貫して変わりません」と、冨田社長は静かに、しかし力強く語ります。
学生時代は接客業のアルバイトが中心だったと、冨田社長は懐かしそうに語ります。「あんまり言えないんですけど……バーですね」と笑いながら教えてくれました。ブティックや本屋など、さまざまな接客の現場を経験したといいます。「接客の基礎を学んだというより、素地として人が好きだったんだと思います。愛想だけが取り柄、みたいなところがあって、いろんな人に可愛がっていただきましたね」。
もともと起業を強く意識したのは、父親が経営者だったことが大きいといいます。「父の後を継ぐものだとずっと思っていたので、サラリーマンになるという人生を、一度もイメージしたことがなかったんです」。そのため、会社をつくるという決意に迷いはなく、「なるもんだと思い込んでいた」という感覚だったそうです。
起業当初は非常に厳しい状況の中でも諦めずに前へ進んできた冨田社長ですが、「諦めないことが常に正しいわけではない」とも言います。「新規事業での撤退も大事な決断です。自分たちが勝てる正当な理由があるかどうか、それを常に問い続けながら進むことが大切だと思っています」。
現在の経営における原動力を問うと、冨田社長は迷いなく答えました。「会社を成長させたいという気持ちはもちろんあります。でも今は、それ以上に、社員みんなが活き活きと働いている姿を見るのが、一番の原動力なんです」。
「自分一人でやっているわけではないので。みんなで一つの目標に向かって進んでいくプロセス自体が、すごく楽しいというか、やりがいを感じる部分です」と、冨田社長は穏やかに語ります。現場の声を直接聞くために、社員と食事をともにしたり、オンラインでもフラットに話せる機会を意識してつくっているといいます。
「ついつい喋りすぎてしまうのが課題で、なるべく聞く方に回ろうとは思っているんですけど、ついつい熱が入ってしまって」と苦笑いを浮かべます。小さな失敗を繰り返しながらフィードバックを得て次につなげていく、というスタンスは経営においても変わらないと言います。「チャレンジして失敗することは良い。ただ致命傷になるような判断ミスだけは絶対に避けなければならない。その繰り返しがあるから、今があると思っています」。
新卒採用では、アルバイト経験を必ず聞くといいます。「何をしたか、そこから何を学んだか、必ず話を聞きます」。ディズニーランドでホスピタリティを深く学んだ学生、飲食店でゼロからリーダーへと成長した学生、農家に住み込んで一次産業を体験した社員——その経験の深さが、仕事への向き合い方に確実に現れると冨田社長は言います。
「コロナ禍の世代はアルバイト経験が少ない子が多い。それが弊害として出てきていると感じます」と冨田社長は言います。学生時代はほぼ同世代としか関わらない時間が長いもの。アルバイトを通じて初めて、さまざまな価値観を持つ多様な世代と接し、社会の広さを体で知ることができます。「社会ってこんなにいろんな人がいるんだ、お互いに認め合いながらやっていくものなんだ、ということを、アルバイトの経験から学べることは本当に貴重だと思っています」。
自分の適性を、やり直しが利く大学時代に探せることが、アルバイトの一番の価値だと思います。 ― 冨田英揮社長
インターンシップについても「良い機会だと思うが、最初からインターンだけというのは少し違う」と語ります。「住み込みのバイトでも、海外でのボランティアでも、とにかく多様な経験を積んでほしい。自分の適性に気づくことで、仕事への向き合い方が大きく変わります」。60代・70代の方でもバイト時代の記憶が鮮明に残っていると冨田社長は言います。「それだけその経験が、今に生き続けているということだと思いますね」。
AIと共に生きる時代に、人間が磨くべきもの
「ホワイトカラーのほとんどがAIに置き換えられていく」という見通しを問うと、冨田社長は率直に「10年後どころか、5年後でさえわからない」と答えました。かつては「単純労働がAIに奪われ、知識労働者が生き残る」と言われていました。しかし現実は逆で、弁護士や公認会計士、コンサルタントといったホワイトカラーの仕事こそ、AIに代替されやすいことが明らかになっています。
「だからこそ大切なのは、AIに使われる側ではなく、AIを使う側に立つことだと思っています」。
「どんな人でもAIに指示を出す役割を担う時代になっていく。そのためには、自分で考えて決断する力、指示を出せる力を養うことが重要です。これまで世間的には指示されて動ける人材を育てる仕組みが多いのですが、これからは指示ができる人間を育てることにシフトしていく必要があると感じています」と、冨田社長は語ります。
時代の変化に対応し続ける力、そして先を読む力が、これからの人間に求められるということです。 ― 冨田英揮社長
「変化に対応し続ける姿勢、そして先を読む力が大事だと思います。その中で、働くことの喜びや意味を自分で見つけていくことが、AI時代を生きる若者にとって最も大切なことになっていくのかもしれない」と、冨田社長は穏やかに語ります。
感謝があるからこそ、全力で育てる ─ 新卒採用への思い
少子高齢化が進む中、新卒採用は「選んでもらう」時代になっています。「選んでいただいたことへの感謝は、本当に大きくあります」と冨田社長は言います。「ただ、感謝があるからこそ、しっかり育てなければならないと思っています。感謝があるから甘やかす、ではなく、感謝があるからこそ本気で育てる、ということです」。
「三つ子の魂百までと言いますが、最初に入った企業の価値観は、その人の仕事観の土台になります。だからこそ、間違った価値観を与えないように、最初の育成には本当に気を遣っています」。会社のフィロソフィーに共感してもらい、仕事の喜びをできるだけ早く感じてもらうことが目標だと言います。
「当社に入って、仕事に対して正しいスタンスができた、仕事に喜びを感じることができた、という価値観が形成されたら、それが最大の恩返しだと思っています。そして何より、それはその人自身の幸せにもつながる」と冨田社長は語ります。
ワークライフバランスを重視する若者が増える中、「働く」ということへの向き合い方を聞くと、冨田社長は率直に答えました。「人生全体を通じてバランスを取ることはとても大切なことです。ただ、社会人として最初の数年間は、一人前になることを最優先にしてほしい、と思っています。その時期にしっかり力を身につけることが、その後のキャリアの土台をつくるからです」。
「仕事って、得意になると好きになるんです。好きになるからもっと伸びる。そういう好循環を、できるだけ早いうちに体験してほしいんです。働く喜びを、できるだけ早く感じてもらいたい。自分の仕事が誰かの人生の一助になったと感じられる喜びを知ることが、仕事をもっと好きになる出発点だと思います」。
様々な経験を通じて自分の適性を知り、決断する力を育てることが大切なのではないでしょうか。 ― 冨田英揮社長
特にAI時代においてはこの問いはより切実です。知識はAIでいくらでも得られる今、「何を学ぶか」以上に「自分は何が得意で、何に喜びを感じるのか」を知ることが、仕事選びの土台になると冨田社長は言います。そのためにも、大学時代のうちにできるだけ多様な経験を積んでほしい、と語ります。
答えはすぐには見つからなくていい。でも、探し続けることをやめないでほしい——そんな思いが、言葉の端々に滲んでいました。働くことの意味を問い続け、社会を改善するために挑み続ける冨田社長の姿は、これから社会へ踏み出す若者にとって、一つの道標になるはずです。
冨田 英揮ディップ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
愛知学院大学を卒業し、求人情報サービス「バイトル」「はたらこねっと」などを展開するディップ株式会社を創業。「夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」という企業理念のもと、人材サービスからAI・DX事業まで幅広く事業を推進。スポットワーク市場の拡大にも積極的に取り組み、日本の労働市場のあり方を常に問い続けている。