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愛知学院大学 短期大学部
歯科衛生学科 専攻科 2026年卒業 野坂 実里Miri Nosaka -
宇宙歯学という未知の領域へ ──
歯科衛生士が見つけた、研究の喜び
Q.学生時代を振り返って、あなたが全力で取り組んでいたことはなんですか?
概日リズムに関わる研究です。「概日リズム」とは、私たちが朝日を浴びて体内時計が動き始め、交感神経がオンになって昼の体に、夜になれば休息モードに切り替わる、生体リズムのことです。
歯科衛生学科に3 年間在籍後、専攻科に進学してさらに1年間、歯科衛生士の枠を越えた「宇宙歯学」という未知の領域に挑戦しました。指導教官の近藤先生ご指導のもと、学位論文のテーマとして「骨芽細胞と時計遺伝子との関わり」を研究しました。
その成果として、2025年11月に大津で開催された日本宇宙航空環境医学会大会で論文発表を行い、Certificate of Presentation Achievementを受賞しました。宇宙医学や宇宙工学の専門家が集まる学会での受賞は、大きな自信になりました。
宇宙歯学は、愛知学院大学短期大学部のカリキュラムには存在しません。きっかけはひとえに、指導教官との出会いです。
指導教官はNASAでの研究経験をお持ちで、骨代謝と概日リズムの専門家です。指導教官との出会いから、もともとバイオ系の研究とは全く縁のなかった私が、細胞培養やDNA解析の世界に足を踏み入れることになりました。
入学当初は「歯科衛生士の国家資格を取ること」だけがゴールでした。宇宙歯学どころか、研究をするなんて想像もしていなかった。でも、指導教官から概日リズムや宇宙環境が骨に与える影響の話を聞くうち、「これはおもしろい!」と純粋に興味が湧いてきたんです。
卒業後は地元の歯科医院で歯科衛生士として働きますが、研究への思いは続いています。
学会を通じて知り合った先輩の歯学部生が、「宇宙空間での口腔内細菌の挙動」を研究しているという話に、大きな刺激を受けました。宇宙はまだまだ未知の領域であり、将来的には一般の方も宇宙旅行に行く時代が来る。そのとき「虫歯があっても大丈夫」な環境を整えるためには、宇宙での口腔ケアの研究が必要不可欠です。
「歯科衛生士の資格を活かして、さらに何ができるか」──まだ具体的な答えは出ていませんが、宇宙という視点から口腔ケアの可能性を広げていきたいという気持ちは確かにあります。
研究に全力で取り組んだことで、私の世界は大きく広がりました。
学会に初めて参加したとき、同世代の学生たちが月面ローバーのナビゲーションシステムを作っていたり、人工衛星を自ら打ち上げていたりする姿を目の当たりにして、大きな刺激を受けました。歯学系の参加者が少ない中でも、「宇宙が好き」という共通言語があれば分野を越えて話が弾む。気づけば宇宙医学・宇宙工学の学生たちと交流が生まれ、人脈も広がりました。
また、研究を通じて意外な変化もありました。医療系の学びの中で身についた「患者さんの話を丁寧に聞く姿勢」が、日常生活の人との関わり方にも自然と染み込んでいったのです。意識しなくても相手の話に共感しながら聞けるようになった、と感じています。
指導教官のご縁により、NASA関連研修 に参加し、実際にアメリカのヒューストンのNASAを訪問する貴重な機会 をいただきました。本研修では、NASAジョンソン・スペース・センターをはじめ、JAXA駐在事務所やテキサスA&M大学 を訪問し、5日間にわたり有人宇宙飛行に関する研修を受けました。
研修期間中には、NASAの研究者の方々と直接交流する機会 があり、さらに 訪問の際に偶然、女性宇宙飛行士である米田あゆ宇宙飛行士がNASAの研究者と実際に打ち合わせを行っている場面に立ち会うことができ、最前線の現場を間近で拝見することができました。
入学当初は国家資格の取得のみを目標としていた私にとって、NASAを実際に訪れ、研究者や宇宙飛行士の活動を目の当たりにしたこの経験は、想像もしていなかった一生に一度の貴重な体験 となりました。
最大の支えは、NASAでの研究経験をお持ちの先生から直接ご指導いただけたことです。その分野の第一人者に就いて研究できる機会は、なかなかあるものではありません。
設備面でも恵まれた環境でした。研究に必要な「3Dクリノスタット」(模擬微小重力を再現する装置)は、同じキャンパスの歯学部からスムーズに借用することができました。この装置はフラスコを絶えず三次元的に回転させることで無重力状態を模擬するもので、そこに骨芽細胞を入れて32時間かけて4時間ごとにサンプルを回収するという実験を行いました。附属病院の研究室にある遺伝子の発現量を調べる装置も貸していただき、遺伝子解析まで学内で完結することができました。
さらに、最近設立された口腔保健総合研究所のおかげで、歯科衛生士の学生も本格的に研究に取り組める環境が整っています。歯学部と短期大学部、附属病院が連携して研究を支えてくれる体制は、他ではなかなか得られないものだと思います。
先生方との距離が近く、学生一人ひとりを温かくサポートしてくださるところが好きです。附属病院での臨床実習では、インストラクターの先生方が懇切丁寧に指導してくださいました。専門的な技術はもちろん、一人ひとりに向き合ってくださる姿勢が、この大学の大きな魅力だと感じています。
入学して本当によかったと思うのは、指導教官に出会えたことです。もしこの出会いがなければ、「概日リズム」も「宇宙歯学」も、研究の楽しさも知ることはなかったでしょう。朝から晩まで及ぶハードな研究でしたが、それは私にとって一生に一度のかけがえのない財産です。
ただの学生だった私に、NASAでの研修という機会まで与えてくださった指導教官の近藤先生への感謝の気持ちは、言葉にし尽くせません。「報恩感謝」という愛知学院の建学の精神が、この経験を通じてより深く心に響くようになりました。